2024年10月25日
毎年10月27日~11月9日は「読書週間」とされていて、まさに「読書の秋」と呼ぶにふさわしい時期となります。ぜひこの季節は、観光を兼ねて小樽でも文学散歩などいかがでしょうか?
「市立小樽文学館」には、小林多喜二や伊藤整、石川啄木など、小樽ゆかりの作家に関する資料が収められています。小さな地方都市でありながら、数多くの偉大な文学者を輩出した小樽には、素晴らしい文学作品を生み出す豊かな文化的土壌と作家を引き付ける魅力があったのではないでしょうか?
小樽ゆかりの文学者の中から著名な3人の作家と、現代に活躍中の小樽出身の作家をご紹介します。
小林多喜二は幼い頃に小樽に移住し、小樽高等商業学校(現在の小樽商科大学)に進学しました。困窮する自家の様子や過酷な労働に従事している人々を見て育ったことから、労働運動などへの関心が芽生えたと言われています。1929年(昭和4年)、虐げられた労働者が闘争に目覚めてゆく『蟹工船』を発表し、一躍プロレタリア文学の旗手と言われるようになりました。その後日本共産党に入党し、困難な状況の中で活動を続けましたが、29歳の時に逮捕され、獄中で亡くなっています。一説によると、拷問によって死亡したとも言われており、小樽文学館には小林多喜二のデスマスクや不可解な死を伝える新聞記事なども展示されています。
小樽市内にある旭展望台に小林多喜二の文学碑があり、友人の妻に宛てた手紙の中の一文が刻まれています。
伊藤整は、父親の転勤に伴い小樽に移り住み、当時小林多喜二が上級生として在学していた小樽高等商業学校(現在の小樽商科大学)へ進みました。1926年(大正15年)に発表した処女詩集『雪明りの路』で注目され、東京に拠点を移してからも、小説や評論の分野で広く活躍しました。小樽で毎年行われている冬の恒例イベント「小樽雪あかりの路」は、この伊藤整の詩集タイトルにちなんで命名されたものです。後年、翻訳を手がけた「チャタレイ夫人の恋人」が猥褻文書であるとして起訴され、”猥褻”と文学表現、表現の自由などの関係を問う裁判へと発展しました。64歳で亡くなるまでに数々の賞を受賞しており、小樽を舞台にした作品も数多く残しています。
伊藤整の文学碑は、塩谷地区にあるゴロタの丘にあり、詩集『冬夜』に所収されている「海の捨児」の中の冒頭部分が刻まれています。
1907年(明治40年)に小樽に赴任し、約4カ月ほどの滞在で小樽を去りました。「漂泊の歌人」と呼ばれていることからも分かる通り、北海道内だけでも1年に満たない短い間に、函館、札幌、小樽、釧路を渡り歩いています。26年という短い生涯の中でたくさんの歌を残していますが、生前は生活に困窮し不遇のうちに亡くなっています。
小樽市内には石川啄木の歌碑が3つもあります。小樽駅から三角市場へと抜ける階段脇にある歌碑には、「子を負ひて/雪の吹き入る停車場に/われ見送りし妻の眉かな」と刻まれています。啄木は、1907年(明治40年)9月から小樽日報の記者として働き始めた際、義兄(姉の夫)・山本千三郎が中央小樽駅(現・小樽駅)の駅長を務めており、この歌碑の近くに官舎があったため、そこに身を寄せて小樽での生活を始めたそうです。
しかし、残念ながら会社の内紛に巻き込まれ、翌1908年(明治41年)の1月には小樽を離れて釧路に向かうこととなってしまいました。この歌はその際の様子をうたったものです。仕事を変えながら道内を転々としていた頃で、新しい土地へと向かう啄木と小樽に残る妻子の不安な気持ちが感じ取れる一首です。
ほかにも水天宮や小樽公園にある歌碑には、いずれも詩集『一握の砂』から、「かなしきは小樽の町よ/歌ふことなき人人の/声の荒さよ」、「こころよく/我にはたらく仕事あれ/それを仕遂げて死なむと思ふ」と刻まれています。
ミステリ界では特に有名な小説家で、昨年デビュー30周年を迎えた小樽出身の京極夏彦さんは、1994年に代表作「百鬼夜行」シリーズの1作目となる「姑獲鳥(うぶめ)の夏」で衝撃的なデビューを果たしました。
その後、映画・アニメなど様々なメディアミックスがされた話題作「魍魎の匣」をはじめ、数多くの長編小説を執筆し、直木賞など様々な賞を受賞。今なお第一線で活躍し続けています。
また、近年では2017年には沼田真佑さんの書いた『影裏(えいり)』が第157回芥川賞を受賞し、2020年には映画化。2024年9月に発売された朝倉かすみさんの長編小説「よむよむかたる」は故郷・小樽を舞台とした作品となっています。
他にも小樽出身の作家さんたちは数多くいらっしゃいますので、今後の活躍も楽しみですね。
「小樽文学館」は旧郵政省小樽地方貯金局の建物だった古い建物を再利用しています。北のウォール街と呼ばれる界隈に位置しており、周りには他にも歴史的建造物などもたくさんあるほか、小樽運河からも近いので、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか?
小樽文学館では常設展のほかに、様々な企画展も開催されています。また、市立小樽美術館も同じ建物内にあり、共通入館券もありますので、文学や美術に興味のある方にとっては存分に楽しめる空間です。
市立小樽文学館・小樽美術館
小樽市色内1丁目9番5号